今月5日、読売新聞に「客の顔情報『万引き対策』115店が無断共有」との記事が掲載された。同紙によると、スーパーやコンビニなどの防犯カメラで撮影された客の顔が顔認証で解析され、客の知らないまま顔データが首都圏などの115店舗で共有されていることが判明したという。プライバシーの侵害につながりかねないと同紙が指摘し、それにサービス提供元とされる企業が真っ向から反論するというバトルが巻き起こっている。
記事によると、顔データを共有しているのは名古屋市内のソフト開発会社が販売する万引き防止システムを導入している店舗。これに「万引き常習者」「クレーマー」などといった要注意人物として顔データが登録されると、再び店に現れた際に店員に分かる形で警報アラートが点灯。別の導入店を訪れた場合も、同じように警報の対象になる。
個人情報保護法では、防犯カメラで撮影した客の顔画像は個人情報に含まれる。ただし、防犯カメラは常に作動していなければ意味がないため、防犯目的なら本人の同意がなくても撮影が認められる。だがその顔データを共有すれば、第三者への無断提供を禁じている同法に抵触する恐れがあることを同紙は問題視。店側の判断だけで“不審者”として登録されれば、客が不当な扱いを受ける危険性があるとも指摘している。
この記事に対し、顔認証防犯システムの開発・提供を手掛けているLYKAON株式会社(本社・名古屋市)が反応。同社の公式サイトに「読売新聞の誤報」とする反論文を6日付で掲載した。
同社によると「無断で顔データを共有することはない」といい、万引き犯として拘束した際などに本人から同意を得てから共有データベースに登録しているという。その場合は本人から同意書を取得するそうだ。
ただし、データ共有しなければ店側が要注意人物として判断した客を無断で登録できる。だが、この場合は読売新聞が問題視している「第三者に無断提供する」という行為には当たらず、防犯目的として認められているという。また、同社は導入店に対して「警報は万引き常習者と断定するものではない」「認証率は100%ではない」「ガイドラインに沿って登録する」といった説明を十分にしているとも主張。さらに読売新聞に対して「報道及び裁判手続を通じて、本件記事の誤報を立証して参ります」と、法的措置をとることを明言している。
同社の反論は自信に満ちたものだったが、一部識者からは「同意を得たからといってデータを共有し、快適に買い物する権利を奪っていいものなのか」という声も上がっており、その法的解釈においては議論が続いている状態だ。
この件に限らず、最近は顧客データ共有をめぐる問題が珍しくなくなった。今月4日、駐車場コンサルティングを手掛ける企業が自動車のナンバープレート情報を基に来店客の動向を分析するシステムの販売を開始し、物議を醸している。
このシステムは、ショッピングモールなど導入店の駐車場の出入り口等に設置したカメラでナンバーを撮影し、車検情報を元に自動車が登録されている地域を特定。「町名」や「大字」といったレベルまで絞り込めるといい、チラシの効果的な配布や道路看板の設置、新規出店の検討材料などに利用できるという。これについても「プライバシーの侵害にあたるのでは」との意見があったが、車検データは「個人情報に該当する情報は削除」した状態で送られるといい、販売会社も「当社の顧問弁護士からも法律上問題ないとのコメントを得ている」と主張している。
また、話題のメガネ型端末「Google Glass」においても、非公式の顔認識アプリ「NameTag」が発表された。このアプリで目の前にいる人物の顔を認識すると、オンラインデートサイトのプロフィールやFacebook、果ては性犯罪者のデータベースなどに接続し、それらの顔写真と照合する。人物データが特定できた場合は、相手の交際ステータスや卒業した学校名、現在の職業や趣味、犯罪歴まで丸分かりになってしまうというシロモノだ。モラル的な問題も指摘されているが、現行の米国連邦法はこれを禁じておらず、すでにアプリはリリースされてしまっている。
企業側のプライバシー配慮が十分だとしても、自分のデータが勝手に使われることに対する消費者の拒否反応は強い。テクノロジーの進化に法律の整備が追いついていないという問題もある。「ビッグデータ時代」といわれる昨今、このような騒動は今後も多発しそうだ。(佐藤勇馬)