12月7日に発売された書籍「昆虫交尾図鑑」(飛鳥新社)がネット上で物議を醸している。同書は様々な昆虫の交尾シーンをイラストで描いたユニークな図鑑だが、ネット上に公開されている写真を無断で模写したものだと指摘され、著作権侵害ではないかとの批判が起きた。これに対して、発売元の飛鳥新社は10日に「著作権を侵害するものではない」とコメントを発表。さらには「理由のない中傷は直ちにお止めいただきたい」と強気な姿勢を見せたため、炎上状態が加速している。
同書は東京芸術大学の学生・長谷川笙子さんが、講義で本を作る課題が出た際に「交尾をテーマにした図鑑をつくったら、面白いんじゃないか」と思いついたことがきっかけで生まれた。それが正式に出版されることになったが、発売後、個人の昆虫図鑑サイトや昆虫愛好家らがネット上に公開している写真にそっくりだとの指摘が相次いだ。写真とイラストを比較した検証画像や騒動のまとめサイトも作られ、長谷川さんに対する大バッシングが発生した。
炎上騒ぎの影響か、同書は発売から5日でAmazonのベストセラーランキング88位(12月11日現在)にランクイン。「昆虫学」「サブカルチャー」のジャンルでは売上1位になっており、一部通販サイトでは品切れにもなっている。
多くの批判に対し、長谷川さんは自身のTwitterで「あれはトレースではありません」「もちろん参考にした写真はあります。しかしその線をなぞったりして描いているわけではありません」などと説明。参考にした写真があることは認めつつも、写真を丸っきりなぞったトレースではないと主張した。
程なく、表紙のイラストと酷似した写真を撮影・掲載している昆虫サイトの運営者が、長谷川さんから謝罪メールが届いたことを公表。 それによると「写真を見て描いたという点は認めており『印税その他、一切の権利も放棄するつもりでいます』とし『写真を使わせていただいた方に全額お支払いいたします』ということでした」との内容だったという。サイト運営者は長谷川さんからの謝罪があったことで追及をやめようとし、彼女から申し出た写真使用料の請求もしないと明言していた。これで騒動は鎮静化するかと思われたが、前述の飛鳥新社の強気コメントによって再び火がついてしまった。
著作権侵害を否定する同社は、写真のイラストと類似性について「主として昆虫の姿と交尾の体位によるもの」と主張。「昆虫の交尾の姿に個性的体位がないのは自明」とし、写真とイラストの描かれた角度が微妙に違っていることに着目して「写真における創作性もイラストにおける創作性もまさにこの点に表れているのですから、創作性における類似性はありません」と断言している。要は、昆虫は全て似たり寄ったりの姿で交尾も同じ体位なのだから、似るのは当然という主張である。飛鳥新社によると、この見解は「著作権に詳しい弁護士の検討を経たもの」とのことだ。
これに憤りを感じたサイト運営者は「表紙に使われた虫は個体差が激しい」と反論。さらには「同じ種でも角の長さや曲がり具合、光沢の形状体色などが異なる」とし、「交尾となると同じ写真を撮影するのは不可能」と断じている。また、同書の表紙では本来あるはずの昆虫の爪が一部描かれていないが、これは模写した写真の昆虫の脚が見切れていたためではないかと疑問を呈し、丸写しであったことは自明であると主張している。また、サイト運営者によると長谷川さんから謝罪メールがあったものの、出版社からの連絡は一切なかったという。
飛鳥新社の主張については、そもそも「虫に個体差がない」という認識が知識不足であるとの批判も相次いでおり、言い訳として稚拙すぎるとの意見も上がっているようだ。仮にも昆虫関連の本を出版した版元としては、致命的なコメントだった可能性もある。
非を認めて事態を収拾しようとした作者を差し置いて強気に対決姿勢を打ち出した出版社サイドの主張により、もはや法の判断に委ねるしかないほどこじれてしまっている今回の騒動。果たして決着がつくことはあるのか、今後の成り行きに注目したい。(佐藤勇馬)
参考リンク:NAVERまとめ 女子藝大学が描いた「昆虫交尾図鑑」が写真のトレースではないかと話題に
http://matome.naver.jp/odai/2138642307212674001